5日目 ピカソ美術館 Musee Picasso

午前中は前の日とおなじく読書三昧。別の店でカフェクレームを飲んでみるが、比較の問題でいまいち。観光客が多そうな店はやっぱりダメかもしれない。

通りには、たくさんの移動式の花屋が。なにごとかと思ったら、5月一日はメーデーで、花を互いに贈り合ってお祝いするのだそうだ。

昼休みに帰ってきた配偶者も小さなスズランの花を持っている。メーデーだからということで買わされてしまったらしい。奥さんがいるなら、もっと大きな花束でなくていいのか?といわれたそうだが。ホテルでは、切り花はすぐに枯れちゃうしねえ。

これがピカソ美術家「塩の館(オテル・サレ)」


入ってすぐにピカソの自画像が迎える。

元気が回復したので、午後は何処かへ行ってみようとも思うのだが、あいにくの休日で、かなりのところが休みらしい。それでもガイドブックにあったピカソ美術館は休日に休みとは書いていなかったので、ひとりで地下鉄に乗って行ってみる。

昼間の地下鉄はさすがに人もまばら。
パリもニューヨークと同様に人種のるつぼなので、いろいろな肌の色のひとたちがいる。黒人や色の浅黒いアラブ系、スラブ系も多い。どちらかというとアジア系に出会うことが少ないかも。

スラブ系っぽい美人のおねえさんが、恋人といちゃついたりしている。


ピカソ美術館はマレ地区という場所にある。もとは王侯貴族が好んで屋敷をたてた場所とのことで、古くて由緒のある建物が散見する。
で、ピカソ美術館は…と地下鉄の駅の地図を見ていると、おじさんにいきなり声をかけられる。

「日本人だろう。ピカソ美術館にいくなら、こっちだ」と。で、いきなり手をとられて、ひっぱられる。おいおいおい、である。このおじさんが私をさらおうとしたのか、本気の親切なのかよくわからない。結果的には、ちゃんとピカソ美術館まで連れて行かれたので、もしかしたら悪意がなかったのかもしれないが…。

こっちはもう怖いばっかりだ。いや、本来ならば、こういう場合、ふりきって逃げることが正しいのだが…。

おじさんは私をピカソ美術館に連れて行きながら、フランス語を教えてくれる。公園はパルクだ、とか。(彼はほんの少し日本語ができる。)メトロのなかではスリが多いので、とにかく気をつけろ、とか。でもって、自分は親切だろう、いい人だろう、と何度も念をおす。

階段の吹き抜けが美しい。


展示もゆっくりとしていて、見やすい。

小さな親切大きなお世話、というか。メトロからゆっくりと美術館まで行きたい私には、帰りの道がわからなくなっちゃうじゃないかー。「メルシー、大丈夫、後はひとりで行ける」と言うのだが、まったくきいちゃいねえし。

で、このおじさんがずっとついてきたらどうしようかと思ったのだが、さすがに有料の美術館には入らなかったので、ひと安心。女性の一人歩きは確かに危ないかも。

こうやって、冷や汗をかきつつ入った、ピカソ美術館だが、中味は大変に素晴らしい。
瀟洒な建物「オテル=サレ(塩の館)」のなかに品よく飾られたピカソの作品の数々。フランスで亡くなったピカソの遺産として、国に寄贈されたものがここに保管されているらしい。私が好きな青の時代からキュビズム、新古典主義に至る生涯の作品が一同に介している。


ピカソの仕事も本当に幅が広い。陶器や彫刻も非常に面白い。ピカソのデザイナーとして溢れんばかりの才能を示している。

生涯にわたって、画風が変化していく。生きる限りにおいて、いつまでも枯れずに、新しいものをと追い求めて行く天才性。

後世の抽象画がこの天才をなかなか超えられないのは、仕方がないのかもしれない。

ピカソの陶器とためをはるあさたれ


オブジェが飾られたアトリウム

さっきの変なおじさんがいないかどうか、左右を確認してから、美術館を出る。さあ、困った。メトロにはどういけばよいのだ…。

幸いなことに、ピカソ美術館で貰ったパンフレットには地図が掲載されている。これを見ていけば、なんとかなりそう。私は言葉がわからない、迷子になったらなんとしょう。非常に残念なことに私は青い眼をしたセルロイド人形ではないので、自分でなんとかするしかない。

まずは、カーニバル美術館(ミュゼーカーニバレ)がみつかったので、ついでにここも見学したかったのだが、残念ながらメイデーでお休み。残念だ。

後ろ髪をひかれながらも、とにかくメトロへの入り口を捜さねば…。街中なので、美術館などの方向を示す標識はたくさんあるのに、肝心のメトロへの道を示す標識がひとつもないのは、何故なんだろう。またメトロの入り口の看板もかなり小さくてわかりにくい。


それにしてもマレ地区、かなり人が多くて。もしかしたら人の流れについていけば、メトロかと思えばさにあらず…。観光客は地下鉄なんか使わないのかしらん。

まあ、多分優に30分ほどが迷った挙げ句に、「私が降りたところとは別の」メトロの入り口(苦笑)をやっとの思いでみつける。やれやれ、これでなんとか帰れる。
ということで、パリでも十分に方向音痴とドジぶりを発揮しつつ、くたくたになってホテルへ帰還。

当然、こういうキュビズムの作品もいっぱい


有名なやぎのオブジェ。

夕方、同じ会議に出席している先輩(配偶者にとっては後輩)といっしょに3人で夕食を。知っているところも少ないので、前にお昼を食べた行列のできている店に。なにしろ夕方にも行列ができているので、まずくはないだろうという判断から。

相変わらず美味しいのだが、残念ながらこの前のお昼とメニューはまったくいっしょ。お肉やポテトの替え玉もいっしょ。(先輩のほうは目を丸くしていたけれど。)でもまあ、安定して美味しいのは確かで。美味しいハウスワインといっしょに。

先輩はひとりで来ているために、レストランにはいけず、ほとんど毎日をサンドイッチあたりで済ましているとのこと。ワインは飲んだのか?と尋ねると、前の晩、ワインオープナーを持っていないかったので、スーパーで小瓶に入ったシャンペンを試してみたとのこと。しかし、なんだか中味が変色しているし、飲んだらとてもまずかったので捨てなくちゃならなかったらしい。

このワイン天国のフランスでまずいワインに出会うなんて、なんて不運な!と思わず配偶者と顔を見合わせる。

スーパーに山とならんでいる5ユーロくらいのボトルでも、十分に美味しいのに。ということで、フランスに行くときはワインオープナーだけは忘れないようにしよう。てゆーか、ワインオープナーを現地調達してもまったく損はないと思うけれど。

中庭でたれを撮影していたら子供に笑われた。


この作品が一番好きかな。

ウェイトレスのお姉さんの勢いに押し切られて、珍しく最後のデザートをいただくことにする。「今日はこれが超おすすめなの!」とプロフィットロール(小さなアイスクリーム=シューの上にチョコレートソースがかかった御菓子)をにこにこと持ってきてくれる。

ただし、3人で一個を仲良く分ける。なにしろ美味しいのは確かに美味しいのだが、かかっているチョコレートソースの濃厚さといったら…。苦みも甘みも香りもすべて、日本のものとは倍以上は違っている。当然ながら、みんな一口食べただけでお腹一杯。いっしょに頼んだカフェ=クレームは口なおしに必須。

デザートまで食べると、こんな気軽なレストランでさえ、食事に一時間半くらいはかかる。ちょっと高級なレストランだったら、3時間くらいへっちゃら。まこと優雅なお国柄。

店を出たら降っていたシャワーがやんで、日も射したきた。
季節がそうなのか、雨がふったり晴れたりと忙しい。

バラ色の時代


その9へ続く