一日目(背徳という名のバーボンストリート)


眼下に広がるミシシッピの沼沢地を走る高速道路
どこまでも続く地平線が、USA

アメリカの大都市はみなよく似ている。規模の大小はあるとして、みなロサンジェルス型。碁盤の目のように張り巡らされた道路と、中央にそびえたつ高いビル群。レストランは全国チェーンばかり。住むのには機能的で便利なのだが、観光で訪れるにはちょっと面白みがない。

ほとんどが人工的に作られた都市なので、仕方がないところ。その中で少数の例外はニューヨークボストンサンフランシスコと、そしてニューオリンズ。初期にヨーロッパ移民が到達したそれらの都市は、それぞれ違った特色と歴史とを持っているかららしい。
ニューヨークとボストンとサンフランシスコは幸いにも訪れることができた。さて、今度はニューオリンズである。

真夏のニューオリンズは暑いらしい。(そして、実際に暑かった。)ホテルを安価に押さえることができて会議の運営上は非常に便利みたいだけれど、「真夏にニューオリンズなんか行きたくない。」というアメリカ人参加者も多かったらしい。暑さと湿気に慣れっこの日本人は、めったにないチャンスだからがんばる。

日本からニューオリンズまでは残念ながら直行便がない。まずはロサンジェルスに飛び、それから国内線でニューオリンズまで。相変わらず超長いフライト時間にへとへとになる。それでも、直行で15時間飛行機の中に閉じこめられるよりはいいかなあ。



空港に飾ってあるタペストリー
さすが、ジャズの街。ノーリンズ。




滞在したシェラトンホテル。
夕暮れのロビー。

機内から窓下を見ると、地平線まで拡がる沼とジャングルの中、白いフリーウェイがどこまでも伸びている。そして、大きく蛇行するミシシッピが見えれば、そこが目的地ニューオリンズだ。

ニューオリンズはマルディ・グラというカーニヴァルがあるので有名な観光地だ。空港から乗ったタクシーの運転手も、とても愛想がいい。さすが観光で食べている都市だからかも。携帯電話で話ながら運転するということもなく、ちょっとした観光案内までしてくれる。


で、やっとホテル到着。まあ、くたくたに疲れてはいるんだけど、今度の会議にはとても知人が多い。ロビーでぼおっとしていたら、テキサス時代にお世話になった教授とその奥さんがにこにことやってきてご挨拶。「空港でも見かけたのよ。声かけたのに、あなたたちは私たちに気付かないでタクシーに乗っちゃったのよ。」と。
ああ、10年前と違うんだからその容赦のないスピードで喋るのはやめてほしいなり、と内心思いつつ笑顔で応対。あー巧く喋れねえ。私の場合、素面(しらふ)だと余計に喋れなくなる。みんな文科省の教育が悪いんや、と、他人の責任にしておく。日本の英語教育の不備を心中で憂えていると、「どうしたの?疲れているの?」「いや、あの、その…。」まあ、疲れているのは疲れているんですけどね。
通されたホテルの部屋では、インターネット接続ができなかったので、早速コンシェルジェに相談して、別の部屋にかえてもらう。ホテルでは、駄目モトでお願いをすることが大事。階も結構高くて、目の前にミシシッピの流れが見える、なかなかの部屋。うん、記念撮影をしながら、「たれ」たちも満足の様子。


ホテルの部屋は50階。眺めが非常によい。
おおたれ家長のハードボイルド。


ここで、一休みといきたいところだが、自由に夕食のできる日はそうそうないから、早速繁華街である「Burbon Street」へ。綴りも読みもお酒のバーボンと同じだが、ここはフランスブルボン王朝の名前が由来とのこと。娼館の建ち並ぶ悪所だったらしいが、現在はライブハウスとレストランが建ち並んでいる繁華街。
土曜日の夜ということもあり、Burbon Streetはもの凄い人だらけである。まるで縁日のよう。歩行者天国になっている道を、人がたくさん行き交っている。ジャズではなくロックの激しい音が、通りの喧噪にも負けずに鳴り響く。
バルコニーには下着姿のおねえさんが現れ、金や紫のプラスチックのネックレスを投げ、それを人々が競って拾おうとしている。後でわかったことだが、これはマルディ・グラの時の風習。週末はこの通りいつもプチ祭状態なんだそうだ。

背徳の街、バーボンストリート。
(といっても単なる歓楽街)
ヌードダンサーのお姉さんが
プラスチック製のチープなネックレスを投げる。
みんな大騒ぎで拾っている。



なんだか縁日のようなお祭り騒ぎ。
毎週末こんな感じだそう。
ひとりしらけて葉巻を吸っているおじさん。
なんか、いい感じ。




ノーリンズ名物の生牡蠣。
一応この季節でも大丈夫とのこと。
手前は濃厚なガンボ・スープ


真っ赤なトマト味。
シュリンプクレオールを目の前にして。
地元のビールもなかなかでした。

「毎晩縁日とは、いやあ、すごいね」と人混みに圧倒されつつ、歩く。
それなりにお腹もすいたので、手近にあるレストランの一つに入ることに。Desire(欲望)という名のレストランである。
ニューオリンズはテネシー・ウィリアムズの「欲望という名の電車」の舞台だから、このレストランもそれにちなんで名付けられているんだろう。
店内は常連(?)みたいな人が多くて観光客が見あたらない。というか、東洋人がいない。まあ、家族連れが食事をしているので大丈夫でしょ。

早速、ニューオリンズ名物の生牡蠣ガンボスープシュリンプクレオールとを頼む。なつかしい、ケイジュンの味再びである。アメリカ料理と名付けられるものがあるのかどうか知らないが、まあ、西海岸なんかで出される食事はおうおうにして量だけが多く大味だ。
だが、ケイジュン料理はフランス料理の影響をうけていて、奥深い。
言葉で伝えようのない不可思議な癖の強い味がする。特にシュリンプクレオールは、私の大好物。ケイジュン風にスパイシーなトマトソースの中に海老が入っていて、それを細長い米のライスにかけて食すという簡単だけど味わい深い料理だ。

このレストラン、正直言って、生牡蠣のほうはちょっと大味。その前にニュージーランドで新鮮で新鮮な牡蛎を味わっているだけに、比較してしまう。やはり海が暖かいからかな…。
しかし、シュリンプクレオールとガンボはさすがの本場の味。特にガンボスープ(オクラのスープ)は特濃。それに海老やら牡蛎やら帆立やらシーフードの具がてんこ盛り。複雑にからまりあって、非常に美味しい。
美味しいビールのお薦めを尋ねた時のウェイトレスさんの対応もとても親切だったので、チップも気持ちよく払える。
ビールを飲みつつ、ニューオリンズの無事到着を祝う。今回予定がつまっていて、暢気な夕食は今日くらいのものだから…。


ジェットラグで早くに目が覚めた。
ミシシッピ川の夜明け

その2へ続く