トロイネタバレ感想

トロイ
公式ページ http://www2.troy.jp/

最初に宣言しておこう
私は実はこの映画が結構気に入っている。多分DVDを買っちゃったりもするだろう。少々いびつで欠点だらけのこの映画を気にいってしまったが故に、あれこれ細かいところを言ってみたくなるわけだ。

あの予告編はまずいと思うな
予告編を見たときに思ったのが、え、今更「トロイ戦争?」である。これでもかという古代ギリシャ船を並べて、大合戦の演出をするのはいいのだが…。CGでどれだけ船を並べようと、あーコピーアンドペーストね〜という斜めな気分はどうしてもある。
ただ、「ギリシャ悲劇」を題材に、というのは気になる。レイ・ハリーハウゼンのアルゴーノートを現在のCG技術で。うーん、それなら一回くらいなら見に行ってもいいかなあ、ぐらいのトーンの低い期待値をもちつつ、映画館へ。

神様がでてこない神話劇
で、いきなり、古代ギリシャ風(?)のコーラスで始まった映画は、結構歴史劇、政治劇になっている。なので、トロイ戦争といえば有名な「不和の林檎」の話が出てこない。裏で糸をひく神様がでてこない。これはなかなか新鮮だった。
パリスによるヘレネの略奪は、ただの馬鹿息子の危ない火遊びが、長年築いた和平を一瞬にして瓦解させる話に変換されている。
「ロードオブザリング」で戦闘マシーン・エルフを演じたオーランド・ブルームは、今度は一転ブラコンで美貌だけが取り柄の次男坊役に。しかもこの次男、情けないけれど結構人がいいんである。王子などという責任ある立場につかなければ、の話だが…。うーむ、上手いじゃん!レゴラスを期待した人たちにはショックだったかもしれないが。役割からいって、この甘えん坊っぷり、情けなさっぷりは、素晴らしい演技だ。演技者としての実力はエルフでは出せないものね。
ただ、パリスのほうが整った顔をしているものだから、イマイチ、ヘレネの美しさが目立たない。まー傾城ヘレネをどのような美女をもってこようと体現するのはなかなか難しいところだろう。殺伐たる21世紀には、国一国を傾ける美女などという概念自体が失われているし。
もっと好意的に解釈すれば、ヘレネはトロイ戦争の原因になったからこそ、美女と謳われ可能性もあるからから、この人間的なヘレネもあながち遠い解釈でもないのかもしれない

スペクタル映画だからね
で、戦争が始まるわけだが、まー戦争の本当の理由はアメガムノンのギリシャ帝国主義の野望。もともとトロイは滅亡への道をひた走っていたので、ヘレネの件は口実に過ぎない。遅かれ早かれ、因縁つけられて攻め込まれたんだろう。なんとなく後年のローマによるカルタゴ侵攻を思わせるような展開である。
という感じでアメガムノンが徹底的に悪役をふられているけれど…(^^;;;。まあ、二時間の映画なので悪役ははっきりさせないといけないから仕方のないことか。

映画としては、青い海と白い砂を背景に繰り広げられる肉弾戦モブは一見の価値がある。もちろん、「ロード・オブ・ザリングス」とどうしても比較されるところだが、一方が異形たるオークを相手にしているのに対して、「トロイ」は人間同士のぶつかり合いである。そのためモブを多用した巨大な軍勢の画面も趣が違ってくるのだ。肉弾相打つ痛みが迫ってくる。

アメリカンヒーローなアキレス
さて、そこに登場するのがギリシャの英雄アキレス。(英語ではアーキリーズという感じの発音)ブラッドビットなので、大男を倒す俊敏な小男という感じ。アキレスといえば、神の子として完璧な美貌の偉丈夫というイメージがあるけれど彼はアメリカンな感じでかなり違和感。
で、このアキレスは自分のことを「神の子」であることすら言下に否定してみせる。いかれた発言をするお母ちゃんはなんとなく預言の能力がありげな感じだけれど、ここもあくまでも神秘な雰囲気のみ。海の女神だからちゃんと海の中にいるんだけれど。あくまで、イメージ。
こういったところにも、この映画「トロイ」が、多神教の神への信仰はあるけれど「目に見える神様」がいない世界、ゼウスの怒りの雷も、アフロディーテの守護も期待できない世界だ、ということが徹底されている。

従って神の子ではないこのアキレスは「何故戦うのか?」ということにうじうじと悩んでいる。なかなかに近代的だ。それで、理由のない征服戦争に身を投じるのに、後世に「自分の名を残す」ことを選んで無理矢理のように参戦するのだ。戦闘には秀でてはいるものの、とにかく未熟な子供っぽさを残しているという感じ。参戦した先で、アポロン神殿の巫女に出会い一目惚れなんかするし。

まあ原作でもアメガムノンとアキレスの対立には、この捕虜となった巫女の奪い合いというのが大事なモメントを占めるので、これはこれでいいのかもしれないが…。もっともその対立は愛情云々ではなく、メンツの問題なんだと思うけどなあ。まー、ここらへん悩めるブラッド・ビッドとその愛の世界は、面倒くさいのでパス。実に眠かった。

バトロクロスとの友情物語じゃないの?
さて、アキレスの物語の山場といえば、親友バトロクロスの仇を討つところ。アガメムノンとの対立もメンツもなにもかもうち捨ててヘクトルとの一騎打ちに挑むところだが。巫女さんとのいちゃいちゃに時間をかけすぎてしまって、肝心のバトロクロスとの友情物語がぜんっぜん描けていない。バトロクロスの立場も、同等な友人ではなく、従兄弟とはいえ出来のあまりよくない舎弟っぽい。ここが一番残念だ。
「半身」をもがれ復讐鬼となるアキレスという熱い漢の物語(男たちの挽歌風)を描くには、バトロクロスとの関係性をもっとちゃんと描いてくれなくっちゃー。

とはいえ、ヘクトル、アキレスの二人の一騎打ちはかっこよかった。妻子に心を残し、自分が死ねばトロイが滅びることをわかっていながら戦わざるをえないヘクトルと、復讐しか頭にないアキレスと。いやあ、一騎打ちに意味のある古代史もののならでは。重い剣の撃ち合いの迫力、ためとキレのある剣劇で。ここらはブラッド・ビットという役者さんを見直しちゃいましたよ。

妻子を大事にし、出来の悪い弟をかばい、老いた王とろくでもない側近達の中で苦悩するヘクトルのほうに思いっきり感情移入させられるので、アキレスはこの時点では完全な悪役。単身死地に赴く王子に対して、誰も止めないんか、君ら!>トロイ陣営

ビーター・オートゥールのプリアモス王
渋い演技である。実際、アキレスの慈悲を乞い、息子ヘクトルの死体を返せと単身で乗り込む王なんて、王失格なんだが。(もっとも、このエピソードはちゃんと原作にもある。)その場面に見ている時間は、最愛の息子を失った老人の失意と悲しみがじんと胸に迫る。これはもう、ピーター・オートゥールという役者を配置したこと自体がいいというか…。上手いなあ…。ついついほろっと来ちゃったよ。

衝撃のラスト付近
「イーリアス」のトロイ戦争は非常に長い戦いである。でもまあ、3時間くらいの映画にまとめるためには、2週間〜1月の話に省略されている。ま、仕方がないところなんだが。
それでラスト所謂「トロイの木馬」がでてくるところで、話は急加速。かの英雄アキレスがその木馬にしのんで、巫女プリセイスを助けにいくんである。いや、まあ、アメリカンヒーローなんだから、女のために命をかけるのは仕方のないところなんだが…。えーと、えーと…。悲劇の英雄の所行にしてはなんと自分に正直な…とは思うし。だいたい、アキレスって「木馬」登場の前に死ぬんじゃなかったっけ。

とはいえ、このアメリカンヒーローもやはり伝説には勝てず足に矢が刺さって死んじゃうのだ。ここはちょっとアメリカンしてませんな。無事に落城から逃れるプリセイスの姿を見送りつつ事切れるアキレス。プリセイスをひっさらってギリシャに帰るんじゃないかと逆にはらはらしましたが…。

で、極めつけはアガメムノン。思わず観客席からずり落ちそうになるほどの衝撃のラストが用意されていたのだ。…アガメムノン、総大将なのにトロイに侵入した挙げ句プリセイスに刺されて無様に死んじゃいました。カッサンドラを連れてギリシャに帰るんじゃないの。クリュタイムネストラから殺されるんじゃないの。ということはエレクトラたちの復讐の話もなくて、後世フロイトがコンプレックスの名前を作るときに困ることになるの。
この話はどうあがいても「炎に包まれて落城するトロイ」という無常感さえ漂うラストになる。だから、最後まで悪役で通したアガメムノンが、ニッコリ笑ってギリシャに凱旋したらそれはそれで映画的には問題アリかも。でも、総大将にしては本当に情けない死に方だった。

ということで、長々とツッコミばかりを書いたけれど、意外と深い人間洞察の入っている映画だったと思う。
何を利用しても地中海世界に覇権を伸ばそうとするアガメムノン。力を持ちながらそれをどう使い振るえばよいのかわかっていないアキレス。破滅の未来を見通しつつも、敢えて自分の責任を果たさざるを得ないヘクトル。兄の死によってようやく王子たる責任の一端を担うパリス。
さらには、滅びるべくして滅びる愚かさをもったトロイの人々。

それは次なるローマの時代へ続くことになる…。


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