ロード・オブ・ザ・リングネタバレ感想

物語は離ればなれになった旅の仲間の三つのパートを、よりあわせることによって語られる。

一つは、アラゴルンたちのヘルム峡谷の要塞を死守する激戦の物語。
一つは、ピピンとメリーが森の精エントの協力を仰ぐまでの過程の物語
一つは、フロドとサムそしてゴラム。傷だらけでモルドールを目指す暗く救いのない旅の物語。

アラゴルンたちの300対10000の戦いについては、スペクタクル映画としてこれ以上のシチュエーションはない。
平原を埋め尽くす大軍の敵。女子供まで抱えて城塞に籠もり、味方はわずか。それも老人や少年ばかり。撤退に次ぐ撤退。倒れていく盟友。しかし、それでも、せめて。せめて一矢を報おうとする戦い。
フィクション的には、これで燃えなきゃ嘘である。

まあ、アラゴルンもギムリもレゴラスも強すぎるような気がするけど。ほとんど人間とは思えない(てか、アラゴルン以外人間じゃないんだが)活躍をするもんなあ。ギムリのコミックリリーフぶりが、この絶望の戦いに僅かにホッとさせる部分である。

(ただ、平原を前にした山城に立てこもるのはいいけれど、せめてもう少し投石機なりと用意しないと。
大軍が攻め寄せているにしては、とにかくなんの策もなさすぎ。到着までほんのわずかとはいえ時間があったわけで。城の前に落とし穴掘るくらいできたような…。)

そして、夜明けの朝日を背に援軍とともに来たる白き魔導師…。
(私は白馬のジジイ萌えです。はい。)

一方、ガンダルフの要請を受け、森の精エントたちを指輪戦争に参加させようとするメリーとピピン。けれど、迫り来るサウロンとサルマンの脅威を説くメリーの必死の言葉も、不干渉を是とする彼らには届かず…。

ここのメリーもピピンも大変にカッコイイので好きなシーンではある。
だがエントのビジュアルイメージがまるで「ネバーエンディングストーリー」のようで、いままでの美術的造形からちょっと離れていることがちょっと残念。(原作の感じからすると、これで正解のようではあるみたいだけど。)


そして、旅の仲間と離れたった二人でモルドールを目指すフロドとサム。彼らのの前には、力の指輪に惹かれた異形ゴラムが現れ、成り行きから旅をともにすることに…。

個人的に最も好きなシーンが、沼の中の死霊。
おぞましくも美しく忍び寄る、冷たい死体…。そしてそこにどうしようもなく魂を惹かれてしまう、すでに指輪によって毒されたフロド。病める魂に忍び寄る死の囁き。
そこから救い出してくれたのが、同じように指輪に毒されてしまったゴラムであるという事実。

サムの親身な愛情と信頼も、あの死の沼からはフロドを救いだすことはできない。サムが無垢であればあるほど、フロドの心が遠ざかるその後を象徴するかのように。

フロド役のイライジャ=ウッドは本当に演技が素晴らしくなったと思う。

ただただその大きな瞳を見開くことでしか恐れと当惑とを表現できなかった前作の少年は、もういない。
指輪に毒される懊悩と快感とを、また自分が自分でなくなることへの恐怖と背徳とを影のように身にまとうものになってしまったのだから。

異形のゴラムも素晴らしい。表情といい、ぬれたような質感といい。その無垢と臆病と卑しさとが同居する不可思議な瞳といい。そして定めがたくコロコロと変わっていく彼の人格(こころ)といい。

フロドとゴラムの物語は、彼らの待つ運命は、さらに過酷を極めるだろう。
それがどう描かれるのか…。
そのための技術であり、スペクタクルであるように、私は思える。

と、褒めに褒めたが、いろいろと文句もないわけじゃない。
みんなに評判の悪いラブシーンとか、アラゴルンの崖落ちとか。
多分に商業的な理由で、スペクタクルを強調するあまりうわすべりな印象を残してしまうところもあるし。

ガンダルフの活躍もかっこいいのだが、私としては前回の会議で見せたいぶし銀の表情のほうがもっとかっこよかったように思える。

というふうに、見ているほうはまったく贅沢だよね。このクオリティで映画が出来ているだけでも幸せなのに。

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