といってもフライトは、たかだか30分。目の前に、荒れ地だらけのモロカイの島が拡がる。見たところ、人の住んでいるような気配すらなさそう。もちろん、モロカイは無人島ではないし、電気水道などのライフラインも整っていて、ダウンタウンもある、はず。まあ、ある部分に集中しているのかもしれない。

しばらくするとセスナは高度を下げたが、どうにも地上には滑走路とおぼしきものはない。一面草が生えている。その中で草が倒れている部分を目指して、着陸態勢…。えーっと(^^;;;;;
そう、滑走路は「舗装」されているわけではないのだ。恐怖を感じる暇もなく、鮮やかに着陸は決められる。薙ぎ倒された草の上に、きっちりセスナは止まる。
これは余談だが、映画ULTRAMANの一シーンに、セスナ機で滑走路ではなく通常の道路へ着陸というのがあった。主人公は「イーグルドライバーなんだから、これくらい簡単でしょ?」と言われて冷や汗をかきつつチャレンジするのだけど…、甘い!、全然甘い!普通の道路なんてチャレンジでもなんでもない。慣れたら、草の上だって着陸はできるのだ。恐るべし、ハワイのセスナ!


翼よ、あれがモロカイだ。昼間だし灯りはない。

上空から見ると人のいる痕跡がない。

これが舗装なしの滑走路。見ているとコワイぞ。


セスナから降りて、後続の機が着陸するのを眺める。次々にあっさりと草地着陸を決めていく。ものすごい勢いでの着陸はまるで曲芸のよう。こえー。轟音を発するセスナが高速で「草むら」につっこんでくる。いや、ただもう、よくアレに乗っていたなあ、と思うばかり。
ツアーの全員が揃ったところで、別荘の庭にしつらえられたテーブルでジュースとオードブルをいただく。緑濃い庭に、茶色の洒落た別荘(といってもオーナーはここにひとりで住んでいるんだとか)。なかなかよい場所だ。


これがオーナーのご自慢の別荘。ここで一人で住んでいるとか。
セスナの格納庫

格納庫にテーブルを出して、パーティ

ニュージーランド軍払い下げのジープ


休憩が終わってから、今度はみんなでジープに乗り込む。何故かニュージーランド軍からの払い下げのジープだそうで、かなりの悪路を揺れながら動き、浜辺へ。何もない浜辺ですよ、いいところですよ、とツアーデスクの人のおすすめの海岸である。


一面、丈高い草むらの悪路をジープは越えていく。

波の轟く音が聞こえたら、海岸。

波はとんでもなく高い。

ツアーメンバーしかいない海岸。

確かに、見る限り誰もいない、美しい白い砂浜。外洋に接しているために波は非常に激しい。
ところで、千葉から来たご夫妻は、「これ、面白いんですか?」と。そりゃ九十九里浜でいつもこういう海を見慣れているだろうからなぁ。私のうちも海が見えるが、港なんで、こういう景色は好きです。

ひとしきり浜で遊んだ後、再びジープに乗り込み、さっきお茶をいただいた場所で、今度は夕食。
飲み物はアルコール別料金ということだけど、一応、魚とチキンとがついて、サラダも取り放題。料理を運んだり飲み物の注文を取ったりとかいがいしく世話をしてくれるのは、日本人ガイドさん。ドライバーとパイロットとギャルソンの一人三役をこなさなければならないから大変。こちらにセスナの免許をとりにきて、それ以来住み着いたのだとか。


滑走路に沈む夕日

オーナーの飼い猫?痩せていて、精悍

食べているうちに辺りが暗くなり、星空が見え始める。

ハワイ諸島は、マウナケア山頂に地上最大の望遠鏡があるように、天体観察に向いている。ホノルルこそ光の洪水だが、それ以外に人工の火もなく、湿気が少ないために空が澄んでいるからだそうだ。
そして、ここはほとんど人のいないモロカイ島である。

夕暮れにまずは夏の大三角が目立つ。天頂を見上げれば、明るい星なので、すぐにわかる。あたりが暗くなるにつれ、また目が暗さに慣れていくにつれ、一等星以外の星々がゆっくりと見えてくる。星が増えていき、やがて、あわあわとした天の川が、ミルキーウェイの名に相応しく白くぼんやりと大空を横切るのがわかるようになる。降るような星空、という喩えが、まさに相応しい。(残念ながら、三脚すらもってきていないので、この星空をカメラに納めることはできなかった。)

普段スモッグで汚れ人工光が洪水となっているよどんだ空しか知らない身に、モロカイ島の天空の美しさは沁みる。前に天の川をはっきりみたのは、高校生の時だもの。

その昔、太平洋の島々を人々は星を羅針盤にしてカヤックで渡った。
だから環太平洋には海で隔てられながら同じような文化が拡がったのである。そして、我が日本列島も、その環太平洋の輪の中のひとつなのだ。もしかしたら我々の祖先の中にも、この海を星を目当てに海を渡り、島国へ行き着いた人たちがいたかもしれない。

私はいつまでもこの星空を見ていたかったが、そうもいかない。帰宅の時間はすぐにやってくる。
もう一度セスナに乗り込み、今度は「地上の星々」を眺めるのである。


揺れる機内で撮った夜景。なにがなにやら…。

行きがけ、気分が悪くなったフライトなので、心配していたのだが、帰りは気分が悪くなる暇はない。ハワイホノルルの宝石箱をひっくりかえしたような美しい夜景も十二分に楽しむ。あ、でも途中でセスナは、なんだか急速降下して、ちょっとこわかったですけどね。いっしょに乗っていた三重の女性たちは、墜落を覚悟したみたいだし。

半日のツアーはこれでお仕舞い。私はあの星をもっと見ていたかったなぁ。できれば、もっと静かなツアーメンバーといっしょに…。