ある日、戸口の先に怪物が立っていた。
哀れで醜い姿で。今にも倒れそうで、悲しげな様子で。
どうか、私にパンをめぐんでください。
あなたはたくさん持っているではないですか。
哀れみを覚えたあなたがテーブルの上のパンを与える。
次の日にも、怪物は立っている。
同じように悲しげな様子で。
どうか、私にパンをめぐんでください、優しいお方。
あなたは夕飯のためのパンを与える。
次の日も、次の日も。
怪物は葡萄酒も。あなたの大事にとっていた干し肉も。
そして何もかもをほしがる。
怪物は言う。
あなたは、なんでも持っているではないですか。
あなたはとうとう、怪物に向かっておずおずと言う。
すまないが、今日は用意できなくてね。
怪物は怖ろしい本性をむき出しにする。
あなたは私にパンを与えた。
与え続ける義務があるのだ。
私を裏切るのか。あなたまでが私を裏切るのか。
私に石を投げた人々と同じように。
あなたは私にパンを与えた。
与えることにより、あなたは満足を得たはずだ。
あなたは自分が親切な人間だと、思えたはずだ。
それなのに、あなたは何も用意できないという。
なんてひどいひとだろう。
なんて酷い仕打ちだろう。
あなたは怪物だ。
怪物の咆哮はこだまする。
ある日、戸口の先に怪物が立っている。