#2002年11月18日(月)
ゲノムひろばに行ってきた。文部省特定領域研究の市民との交流イベントである。
職場にはいっていたチラシで、ゲノム談義のパネリストが瀬名秀明氏だということにひかれて。だからいささかミーハー。
ロボット関連などではこういう催し物は多いものの、分子生物学では珍しいし。文部科学省の特定領域研究の発表の場として非常に興味深くはある。
配偶者に聞くとパネリストのひとり久原教授はDNAチップをやってらっしゃるらしいし。酵素にも関連するらしいので、ちょっとだけ期待。
会場は福岡市の中心部天神、エルガーラというビルの中。きれいだしアクセスもいい。お金はかかるが一般向けならこれくらいのところでやらないとひとが集まらないから。
さて、ゲノム談義はパネリストのプレゼン(自己紹介を含めた仕事内容の紹介)から。メインゲストの作家瀬名秀明氏から。
さすがに作家の瀬名氏は一般向けに喋り慣れているので話しが上手い。ゲノムのみならず、パラサイトイブに因んでミトコンドリアに関しての説明に多くの時間を割く。
ゲノム研究が一段落すれば、核の中だけでなく細胞全体の各種機能との関連性が新しいターゲットとなるだろうとのこと。
そして、ゲノムという言葉の指す意味が一般に流布していないとのことを指摘も。
実は恥ずかしながら私もゲノム=遺伝子=DNAと漠然に思っていた。それらは一般科学雑誌などではいっしょに語られる事が多いし。
ゲノムは核内に存在する遺伝情報を含んだDNAの連なりを意味するらしい。つまり核外のミトコンドリアにもDNAが存在するがゲノムとは言わないようで。
#とはいえ、核を持たない生物の遺伝情報はこれまたゲノムといっているみたいだし…。
またゲノムの中には遺伝情報を含まない部分つまり「遺伝子」ではない部分もあるので、ゲノム=遺伝子の集合体というのも違うようだ。
科学用語の一般への説明は大変難しいし、常に単純化、解りやすい部分の抽出化(私の造語だけど)が起こる。
現にこのゲノム談義でもらったパンフレットの中にも、「ある生き物のもつすべての遺伝情報をゲノムといいます」と書いてある。でもその下には遺伝子でないDNAも含みます、と説明があってるし(汗)
その場でわかったような気になって帰ったが、よくよく考えるとまたわかんなくなってしまった。研究者自身は狭義広義とでも使いわけているのだろうか。
次に九大生体防疫医学研究所の服部教授のお話。外的要因と遺伝的要因の両者が絡まっておきる病気(つまり一般的な病気のほとんど)の遺伝子レベルでの病因を探るのが専門らしい。
まだまだ、その原因遺伝子を探っている途上でがあるが、将来的にはある遺伝子を持ったひとがある特定の病気にどれくらい罹りやすいか、ということが言えるようになるらしい。
しかし、このことを「発症前診断」と呼ぶのは絶対に避けてほしい、と強調されていた。あくまでも、それは「診断」(必ず罹る)ではなく、「リスク評価」なのだと。
遺伝子研究には遺伝、家系、血、などといった呪わしい言葉が付随しやすい。このことの取り扱いに神経質になられるのは実によくわかる。ひとは「言葉」によって、逆に縛られるものだし。
また、このように人類が多様なる遺伝子を持っていることこそ、人類という種が生き残ることに必要なことなのだ、と指摘される。飢えに強くあるための遺伝子を持つひとが生き延び、飽食の時代にその遺伝子故に病気に罹るのは自然の流れにすぎない。
後の質問で治りもしない病気のリスクを聞かされてもつらいだけで無意味ではないのか、(意訳)という指摘があり、それが他者ひいては全体への利益につながるのだから研究はすすめなくてはならない、という答えが返ってきた。
私はそれ以上に自分の苦しみが何故なのか、というのを正確に知りたいけどなあ。それが自分自身のゲノムのなかの一遺伝子による不都合なのか、それが何故起こりうるのか。
三番目が九大農学研究院の久原教授。分子生物化学分野からの代表のようだ。DNAチップという技術を使い、m-RNA量を測定することで、ゲノム内のDNAが何時何処で発現(活性化)しているかを調べる、というような研究をされているらしい。
うーん、私としてこのDNAチップによる測定のメカニズムあたりを、もっと詳しく聞かせてもらえるかと思ったのだが、そこらへんはすべて別会場の研究発表のブースで聞いてくださいとおっしゃる。なんだかなあ。
それが時間内に簡単に説明できることでないのは重々承知しているが、説明を拒否しているようにしか聞こえないのにがっかり。
最後に毎日新聞科学環境部編集委員の青野氏による生命倫理関連の話。遺伝子情報解析でのプライバシー侵害等、これは服部教授の遺伝子治療へのフィールドワークなどにも直接つながる話。
アメリカ主導で始まったゲノムなどの生命科学への危惧から始まる生命倫理の問題。しかし、キリスト教圏における「倫理」=「ethics」をそのまま日本に持ってきても、それが根付きにくいのは確か。日本はモラルの成文化を嫌うし。
とはいえ、現状その構築が急務なのは確かだろう。なにしろ、研究のスピードは速く、にも関わらずコンセンサスを得るための情報の開示が遅々として進まない。
説明の後はフリートーキングという形で。それぞれの分野への質問を述べられたり答えたり。
ということで、結構面白い話しゲノム談義だった。けれど、ゲノムということでかなり範囲が広すぎるような気も。パネリストが多岐の分野にわたっているので、こちらからの質問はちょっとやりにくいような。
とりあえず、貰った小冊子のできが非常にいいので、この部分だけでもpdfにしてWEB公開しないのは、たいへんに勿体ない話ではないかと思う。
その後ブースをちょこっと回ってみるが、人があまりにも多いので、疲れてしまい退散。
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